沖縄には今までに5回行きましたが、一度だけレンタカーを利用しなかった時
があり、その時に乗ったタクシーがあまりにも想定外というか、今までに経験
したことのない規格外のタクシーだったので、かなり古い話ですが鮮明に記憶
があるので、書いておこうと思います。
「守礼の門」のところで空車のタクシーを見つけて、ディナー（というほどの
高級レストランではありませんが、一応夕食の予約なので）の予約をしていた
沖縄料理の店の名前を伝えてタクシーに乗り込むと、とても丁寧な言葉使いの
ドライバーで「ご乗車ありがとうございます」なんて挨拶までされて、流石に
観光地の沖縄では、タクシードライバーもおおらかで優しい感じの人なんだね
と思ったわけですが、最初のイメージはサクッと裏切られました。
スタートする前に、カーステレオ（まだカセットテープでした）をセットして
おもむろにサービスです、と宣言されたので、はあ？何のサービスでしょうか
と思いましたら、スピーカーから流れてきたのは、都はるみのカラオケ。
イントロの演奏が終わると、ドライバーが裏声という割りには妙に野太い声で
思いっきり感情をこめて歌を唄い始めたではありませんか。
男性ですが、歌は都はるみの演歌、当然リクエストなどはしていません。
鼻歌などではなく、目一杯の声量で車の中に響き渡るような大音量でした。
正直なところ、歌は要らないですと言いたいところですが、本人はサービスと
宣言しているわけで、朗々とフルボリュームで、自分の歌声を乗客に聞かせる
ことがサービスなんだと、彼は理解しているわけなので、無下に止めてもらう
というのも、なんだか申し訳ない気持ちで、もしかしてとんでもなく勘違いを
しているタクシーに当たってしまったか？と考え始めた頃に、那覇市内に入り
通行量が増えて渋滞が始まりました。
信号も増えて、なかなか車列が前に進まなくなってきたところで、おもむろに
窓を開けたドライバーは、唐突に前の車に向かって「ごらぁ！トロトロ走るな
ぶっ殺すぞ！」と雄叫びを上げ、前車との車間をジリジリと詰め始めました。
いや、そんなに無茶しなくてもと言いたいところですが、下手に言葉に出すと
今度はこちらが怒鳴られそうな雰囲気だったので黙っていると、ドライバーは
今度は沖縄民謡にしましょうね、と発車時の天使の笑顔に戻って、走行中にも
関わらず振り向いて話しかけてきました。
もしかしたら、沖縄でこのまま命を落とすかも知れないと思いつつ、それでも
「あっ、そうですか、宜しくお願いします」と答えてしまう小心者の私。
それ以降も交差点で前車が停まるたびに、クラクションを激しく鳴らしまくり
お前が停まるから進めないだろう！と叫びながら、当たる寸前（もしかしたら
当たっていたかも知れません）まで、車を接近させ、さらに途切れることなく
クラクションを鳴らして前進を続けました。
ようやく目的地に着いた時には、本当に疲労困ぱい状態でしたが、それでも命
がある状態で解放されたのが嬉しくて、ちょっと明るく料金を払おうとすると
優しい笑顔で「お迎えはいかがしますか？」と聞かれたので、ここからはもう
ホテルまで歩いて帰れますと嘘をついて、丁重にお断りしました。
こういう、タクシードライバーの穴場みたいなところに連れて行ってもらえば
良かったかも、と後になって思いました。
本当に暴力的な運転でしたが、お客である私にはトコトン優しく接してくれて
料金もメーター通りでしたから決して悪い人ではないと思います。
お金を払って、車から降りてドアを閉めたと思ったら、滑走路を離陸するかの
ような勢いでロケットスタートをして夜の闇に消えていきましたので、元々が
走り屋さんなのかも知れません。
沖縄のタクシー全般というよりは、このタクシードライバーがちょっと異質な
人だったというのが実際のトコロですが、タクシーに乗ってほんの十数分程の
移動で、命があって良かったと思ったのは現時点ではこの時だけです。
あのスピードレーサーのドライバーは事故に遭うこともなく、免許が執行する
ことも無くまだ続けていられるのでしょうか。ちょっと気になります。