もっとも高く評価されている演技派俳優のソン・ガンホが「シュリ」「JSA」
などに出演して、人気俳優の一人として認められた頃に主演したコメディ映画
が、この「反則王」という作品です。
ソン・ガンホが演ずるのは、銀行に勤めてはいるものの業績は低迷し、支店の
副支店長から目を付けられて、なにかことを起こす度にプロレス技のヘッド・
ロックをかけられて痛めつけられるというダメ行員のデホ。
そんなデホが会社帰りにプロレス道場の前を通りかかった際に、練習生募集の
チラシを見て、入門を決意します。
理由はもちろん副支店長のヘッド・ロックの返し技を習得するためでした。
仕事帰りの猛練習で自信をつけたデホは、凶器攻撃をする悪役覆面レスラーと
して、デビュー…ということで、タイトルの「反則王」に繋がります。
プロレスラーとして自信を付けて、会社の同僚の女子に告白するものの冗談は
止めて下さい的なあしらいを受けて、走ってトンズラするとか、実際に身体で
表現することは無いだろうけど、心情的には若かりし頃に一つや二つは誰もが
(有無を言わさずモテモテの人は別)経験しているような、ハートブレイクな
青年期の物語みたいな映画です。
真面目なプロレスファンが見たら、なんじゃこりゃな設定ですが、プロレスの
本格的な興行団体があるわけでもない、2000年の韓国での話なので、見世物
としてのプロレスであって、格闘技ではないリアルさがあるように感じます。
ラストシーンでは副支店長にストリートファイトを挑むわけですが、さすがに
結末については書きませんので興味のある人は映画を観て下さい。
なお、胃がんのために35歳で亡くなってしまったチャン・ジニョンが、道場の
館長の娘役(ミニョン)として出演しています。
哀愁漂う感じのコメディ映画なんですが、監督はサスペンスホラー「箪笥」や
韓国映画史上最高の胸糞映画とも言われる「悪魔を見た」日本統治時代に日本
の警察に雇われた韓国人が、同胞である韓国人に対してスパイ活動をする重い
テーマの「密偵」などを撮っているキム・ジウンです。
キム・ジウン監督は「悪魔を見た」の高い評価によって、アメリカに招かれて
アーノルド・シュワルツェネッガー主演の「ラストスタンド」も撮っています
ので、いろいろ見比べてみるのも面白いかと思います。
ソン・ガンホも、キム・ジウンも、予算はあまりなかった感じの「反則王」を
踏み台にして、それぞれの作りたかった映画を成功させたみたいですね。
二人の映画人の夢の轍として、こういう古い作品を観るのも良いかもです。