「ふぐは食いたし、命はおしし」という言葉が書いてありました。
昔から、ふぐは美味しい魚であると同時に命がけで食べなければならない危険
な魚であったことが短い文の中に凝縮されています。
縄文時代の貝塚からも、ふぐの骨が見つかっていますので、はるか昔の祖先の
時代から食用にはされていたので、死者も多かったのではないかと思います。
全国的には「ふぐ」が標準な呼び名ですが、下関や博多では濁らずに“ふく”と
呼ばれているのはよく知られている話ですね。
これは同じ読み方の「福」という意味の言葉にかけてあるわけですが、大阪に
おいては、当たると死ぬ(助からない)という直接的な意味合いから、鉄砲と
呼ばれていて聞いた感じでは天国と地獄の違いがあります。
ふぐが危険な魚であることは世界的にも勿論認知されていますので、アメリカ
では毒魚であるふぐは調理して販売すること自体が禁じられています。
高いお値段と生命の危険があるにも関わらず、日本では重要な冬の味覚として
愛されているふぐという魚についてのお話です。
ふぐは他の魚種と違って脂肪がつかないので魚肉自体の旨みを味わう魚です。
元々から動きの少ない魚なので、養殖であっても余計な脂肪分が付かないので
ふぐの場合は、たとえ養殖であっても天然と同じレベルの味にすることが可能
な養殖に向いた魚種であるとされていますが、それでも天然のトラフグの価格
は一段階上ですから、見る人が見れば違いが判るのでしょうね。
ふぐが美味しいとされている理由の一つとして、無毒だとされている筋肉部分
一般的な身の部分にも非常に弱い毒があるために、その毒が味覚に作用すると
いう説もありますが、この説は科学的に証明されたわけではありません。
ただ一般的な魚介類の美味しさが脂の旨みであるのに対して、ふぐの場合だと
脂の力を借りなくても充分な旨みを持った特別な魚種だということは、相場と
世間の評価から、ある意味証明されていると言えそうです。
では、ふぐの毒についてはどこまで解明されているのかという話です。
縄文時代から現代まで恐らく多くの犠牲者を出してきたと思われる、ふぐの毒
は名称としてはテトロドトキシンと名付けられています。
その他の生き物では、イモリの皮膚やスベスベマンジュウガニといった生き物
が同じ種類の毒を持ってはいますが、両方とも基本的には食用にはしないので
人が中毒を起こして死ぬのは、現時点ではふぐだけになっています。
但し、ふぐ毒の正体は実は餌のプランクトンが作用しているという説があって
ろ過した清浄な海水で、人間が管理した餌を与えられている養殖のふぐの場合
毒の濃度が微量だという結果も出ているので、餌の中に含まれている何らかの
成分が体内に蓄積されることによって、ふぐ毒が作られていると見られていて
理屈上では、養殖のふぐの場合は猛毒があるとされる肝臓を食べても大丈夫と
考えられているようですが、法律上では許可はされていません。
長くなってきたので、ふぐ毒の詳細な話は次回にするようにします。