今年の初場所の話ですが、東前頭二枚目の宇良が土俵から落下した際に後頭部
を強打して、脳震盪状態であるにも関わらず自力で土俵に上がったものの普通
に立つことが出来ず、結局は車椅子で支度部屋に戻ったというものです。
土俵から落ちた際に後頭部を強打(かなり大きな音が館内に響きました)して
しばらく動くことが出来なかった時点で、本来ならばボクシングなどと同じく
リングドクター的な立場の医師が判断するべきだと思いますが、審判は動くな
と声をかけただけで、直接的には何もしませんでした。
日刊スポーツの記事によれば、審判部のある親方が「幕内力士なら、自分の体
は自分が分かる」として、幕内力士が大丈夫だと言えば信用するしかない、と
言ったようですが、頭を強打して翌日には落下後の記憶がないというレベルの
衝撃を受けているわけですから、本人が大丈夫だと言えば大丈夫というような
根性論をいまだに唱えていることに呆れました。
昨年には一人の若者が亡くなっているわけです。
館内に響くほどの大きな音で頭を打っても、本人が大丈夫だと言ったら止める
方法がないというのは、もしも死亡事故になったとしても、本人がどうしても
出たいと言ったから本人の自己責任です、と逃げ場を作っているだけの無責任
な発言が出ること自体、死者が出た去年の事故を全く参考にしていない証拠と
思われても何の反論も出来ません。
理事長は、宇良が最後まで諦めないのが良いと言いつつも、自分だけではなく
相手にも怪我をさせるリスクがあると認めていても、他の親方がそれなら勝負
を諦めろということかと反論しているようですが、相撲で一勝することに命を
懸ける価値があるでしょうか。
勝ち目がないから諦めて、大きな怪我になる前に勝負を捨てる、と言うよりも
大怪我をして相撲取りとして生きることが出来なくなろうが、外傷性の脳出血
で死んだとしても一つ勝つことの方が大切だと思っているのなら、親方なんて
すぐに辞めて相撲界から身を引くべきです。そのような考えによって殉職者が
出ることこそが相撲界にとっても、命を落とした若者にとっても不幸なことで
あることは説明するまでもないことです。
世の中には「無事之名馬」という言葉もあるわけで、命がけの一勝よりも危険
な時には無理をせず、100勝、200勝と積み重ねることの出来る相撲取りこそ
日本相撲協会の宝として大切にしなければならないはずです。
土俵の高さが危険ではないのか、と問われれば、遠くの観客からの見やすさを
優先しているから仕方がないということになるようですが、そうであれば今時
大きなライブ会場では当然使われている大型画面やスクリーンなどを設置して
どの客席からも見えるようにすれば良いのではないのか、土俵の外側が狭くて
逃げ場がないという点について、土俵の外側をもっと広くすれば良いと提言が
あっても、伝統的に土俵の寸法は決まっているとかね、とにかく改修費や設備
にお金をかけたくないので、相撲の歴史や様式美にこだわったフリをする日本
相撲協会の幹部たちの下では、死者・重傷者を減らすことは無理ですね。
最後に、格闘技的な要素もあって頭部の負傷頻度の高い球技であるラグビーは
公益財団法人日本ラグビーフットボール協会から、「ラグビー外傷・障害対応
マニュアル」が出されていて、頭部外傷の対応、特に脳震盪の疑いがある場合
の対応について、以下のように書かれています。
脳震盪の場合、始めの24時間とそれに続く48時間に問題が起きる場合が多い
ということから、事故の当日は一人にしないようにして、次の症状がある場合
すぐに病院に連れて行ってくださいとされています。
1.頭痛が強くなる。
2.眠気が強くなる、目覚めた状態でいられなくなる。
3.周りにいる人や自分が今いる場所がわからなくなる。
4.嘔吐を繰り返す。
5.いつもと違う、混乱している、イライラしている様子がみられる。
6.痙攣が起こる。
7.手足に力が入りにくくなる。
8.しっかり立てなくなる。話す言葉が不明瞭になる。
9.首の痛みが続く、または増してくる。
7.8の症状は明らかにありましたから、その場で病院に連れて行くべきだった
と思いますが、翌日の取組で見事に勝ったとして頭部外傷についてはなかった
ことにされていますからね。マスコミも含めてバカな自称国技ですよ。
何人の若者が死んだり後遺障害に悩まされたら気付くことでしょうね。