暑い夏の間に掲載しようと思っていましたが、タイミングを逃してしまい
ちょっと涼しさも感じられる今頃になってしまいました。

私が高校生の時のことです。
約60年の歴史のある古い学校だったので、いわゆる「学校の怪談」の話題
にはコト欠かないところでした。

三階には入り口を頑丈に釘付けして封鎖されているトイレがありまして、
話によると、数十年前(戦中・戦後のどさくさの頃らしい)に、学校内で
レイプ事件があり、女子生徒がトイレで首吊り自殺をするという事があり
それから、このトイレから泣き声が聞こえたり夜中に守衛が歩いていると
後から引っ張られることがあったりしたそうで、お祓いをしてから二度と
開けられないようにしてしまったということでした。

学校の中でありながら噂が噂だけに誰も近寄らないところでしたが、一度
大掃除か何かの時に一度だけ封鎖を解くという話がありまして、興味津々
の一部の生徒と体育の先生が釘付けされた木の板を外そうとしましたが、
結局は簡単に開くことが出来なくて断念してしまったので、コトの真相は
不明なままなのです。

この話はあくまでも伝聞なので、ああそうだったの?で終わりなんですが
私を含めた何人かは夜の体育館で実物を見てしまいました。

私は演劇部に所属していて、夏休み期間中には県のコンクールがあるので
学校で合宿をし、夜になると体育館のステージで練習をしていたのですが
まず女性の先輩が得体の知れないヒト?を見てしまったのでした。

照明(ライティング)の機材は、ステージの袖側の二階にあったのですが
先輩が二階の照明の調整室にいたら何か階段の方で人の気配がしたそうで
部屋から出てすぐの階段を覗くと、白い着物のようなものを着た女の人が
音もなく階段を登ってくるのが見えたらしいです。

着物を着るようなシーンなんてあったかなぁ?と思いながら見ていると、
その女性は何も言わずに階段を登りきると、真っ直ぐに先輩の方に向いて
滑るように足を動かすことなく先輩の正面に立ちました。

そこで先輩は始めて見たことのない女性で、生気が感じられない寂しく、
そして冷たい目で何かを訴えかけようとしてようだということに気付いて
恐怖で動けなくなったそうです。

女性は一言も発しないまま先輩の前に来て、先輩にぶつかるように進むと
そのままぶつかる寸前に消えてしまったということです。

黒というよりは藍色の澄んだ瞳が、真っ直ぐな心を表わしていたようで、
確かに何かを訴えたかったんだと思うと気丈に、でも震えながら生々しい
体験談を話してくれたのでした。

学校の怪談「D」高原のきもだめし (講談社KK文庫)
常光 徹 楢 喜八


by G-Tools