笛を吹く男【2015年・韓国映画】U-NEXT 見放題 [シネマクラブ]
子供の頃には、不思議な笛を吹いて街に増えすぎたネズミを連れていく、という
牧歌的な話だと思っていましたが、そういう単純な話ではありませんでした。
映画の話の前に簡単に「ハーメルンの笛吹き」の話をまとめます。
ドイツのハーメルンという町でネズミが大増殖して困っていました。
町民はネズミをなんとかしてほしいと町長に嘆願しますが、なす術がない町長が
困っているとある男が私がネズミを街の中から消しましょうと申し出ます。
町長はネズミを始末してくれたら、ありったけの金貨を与えると約束し、それを
聞いた男が笛を吹くとネズミが後を追って街中からネズミはいなくなりました。
男が町長に約束通りに金貨をもらいに行くと、町長は偶然ネズミがいなくなった
だけで、おまえが笛を吹いたからという証明は出来ないではないか、と言い放ち
町の人たちも町長に続いて笛を吹いた男を糾弾しました。
笛を吹いた男は町長も町民もみんな嘘つきばかりだと嘆き、こんな町に住む子供
は嘘を平気で吐く大人になってしまうと言って、笛を吹いて子供たちを町の外へ
連れて行ってしまい、ハーメルンから子供の姿は全て消えてしまいました。
という話で、笛を吹いてネズミをどこかへ連れて行ってしまうという、ほのぼの
した話ではなく、おどろおどろしい話でした。
この話には原案になった実話があって、1284年にドイツで子供130人が忽然と
姿を消すという事件があったため、その話が伝説として残っているようです。
映画の「笛を吹く男」という映画は、この「ハーメルンの笛吹き」をモチーフに
して、より猟奇的に社会問題も織り込んで作られた映画です。
肺病の子供に治療を受けさせるためにソウルへと向かう楽士(音楽を奏でながら
物を売って生計を立てる行商人)ウリョンが、山奥の村で村長の世話になった際
村でネズミが大繁殖して困っていることを聞いて、ネズミ退治を志願します。
村長は牛一頭分のお金を払うからと言ってウリョンにネズミ退治を依頼し、笛を
吹いて村からネズミを一掃します。
ネズミを退治したウリョンは村長に対し約束のお金を請求しますが、村長は自分
と巫女が祈ったからネズミはいなくなったと主張し、そもそもウリョンはアカの
スパイで村の偵察に来たのだと難癖をつけ、ウリョンの指を切り落とし、商売の
道具である笛を取り上げて村から追放します。
ここから「ハーメルンの笛吹き」に残酷な描写も盛り込んだホラー映画に変わり
おぞましいラストへと映画は進んでいきます。
ということで、特に話題になったりした映画ではありませんが、朝鮮戦争の時に
アメリカの駐留部隊がいかに韓国人を下に見ていたかとか、共産主義(アカ)や
ハンセン病患者に対する差別など、韓国の歴史上の恥部を曝け出している部分も
多分にある作品になっています。
「エクストリーム・ジョブ」「人生は、美しい」のリュ・スンリョンがいつもの
力強い男ではなく、生まれながらに足に障害があり、肺病の息子を持ったか弱い
父親を演じているのも珍しい配役になっています。
「哭声/コクソン」で、巫女の能力を隠し持つムミョン役を演じたチョン・ウヒ
が、この映画では村長に無理やり巫女をさせられている女性を演じています。
ちょっと後味の悪い映画ですので、お勧めはしません。
>こんな町に住む子供は嘘を平気で吐く大人になってしまうと言って、笛を吹いて子供たちを町の外へ
ええっ、そんなお話だったのですか!?初めて知りました。
by 溺愛猫的女人 (2024-05-26 12:29)
とても怖い話なんですね。
by JUNKO (2024-05-26 21:57)
お勧めしないといわれると逆に観たくなりますね。一番残酷で怖いのは人間ということでしょうか。
by いっぷく (2024-05-26 23:49)
溺愛猫的女人さん:
コメントありがとうございます。
「ハーメルンの笛吹き」という話を最後までまともに聞いた覚えは
ありませんでしたが、実際に話を聞いて「本当は怖いグリム童話」と
いう本と同じような気味悪さを感じました。
今回、紹介した映画はインスピーレーションを受けた元々の話に
さらに「村社会」「病気に対する恐れ」「共有する秘密」という要素
が加わることで、さらに陰惨な話になっています。
by suzuran (2024-05-27 00:43)
JUNKOさん:
コメントありがとうございます。
日本でも社会問題化している昭和の時代の「ハンセン病」患者に対する
扱い(映画の中では差別以上に酷い仕打ちをしています)、そして時代
背景として朝鮮戦争(北に対する憎悪とよそ者に対する疑念)の直後の
閉ざされた村における秘密があり、その秘密は住民だけの間で共有され
外部に知られてはいけないこととしてかん口令が敷かれている。
そんな村に迷い込んでしまった親子の話です。
残虐な描写もありますが、現実離れした部分もあります。
by suzuran (2024-05-27 00:50)
いっぷくさん:
鋭いですね、そうです人間の一番弱い部分に塩をすり込むような村長が
もっとも弱い立場の人間の理性を失わせて、怪物にしてしまう怖さを
閉ざされたムラの中で最大限に表現した映画です。
by suzuran (2024-05-27 00:55)